話: la boulangerie Lienラ・ブーランジェリー・りあん 平川昌之さん
やわらかな陽が差し込む窓の向こう。焼きたてのパンを木の棚に一つ一つ丁寧に並べる姿が見える。カジュアルな菓子パンや総菜パンに本格フランスパン。生地の奥深い味が魅力で、パン好きの人が遠くからも通う人気店だ。この魅力的なパンたちを生み出しているのは佐久市「りあん」のオーナーシェフ平川昌之さんだ。
りあんはフランス語で、縁や絆、つながりという意味です。パンを通して人と人、人とものとの繋がりを表現したいと願う気持ちを込めて店名にしました。
出身は東京ですが母の実家が佐久にあり、夏休みを過ごすうち、自然豊かで人の気持ちが温かい佐久の暮らしに憧れを持ちました。子どもの頃から人と人との結びつきに関心があり、大学では社会学科で人やものの流通、マーケティングなどを学びました。卒業後はたくさんの人の食を支える製パン会社に就職して、その会社の製造現場で実習体験をした時、生まれて初めてパン生地に触れ、『これだ』と思いました。それから、あらためてパン職人の道を歩み始めました。多くの職人の門をたたいて師事し、パン作りを一から学びました。ぼくは、パン生地をこねることが本当に好きなんです。自分だけのパンを作り出せるのは少年のように心が弾みます。自分の店を持つならぜひ佐久に、との思いで土地を探していたところ、この場所に縁がありました。2008年に「りあん」をオープン。浅間山と八ヶ岳、雄大な山々を眺めながらパン生地を作ることができるのは本当に幸せだと感じます。お客様と会話を交わせることも職人として励みになります。
店を出すにあたって、食材は地元のものを積極的に使っていきたいと強く思っていました。フランスパンの生地作りには佐久穂町の農家で育てている小麦粉を使っています。作り手と語らい、想いを感じられるのは地元産ならではのことです。 佐久市に住んでから野菜や果物のおいしさにも驚かされました。はじめはパンに合わせる素材を探すつもりでいたのですが、採れたての味と出会ううち、素材を受け止めてその持ち味を生かすパン生地作りをしようと思い至ったんです。トマトやズッキーニがゴロっと乗ったピザ、摘み取ったばかりのツヤツヤのブルーベリーを並べたデニッシュ、目の覚めるような緑が生地から顔をのぞかせる春菊のリュスティックなど、すぐそばに畑があるからこそ作りだせるのだと思います。
佐久地域で飲食に携わる経営者や職人が集まる「39BAR」(サクバル)というグループに参加し活動しています。尊敬する職人たちと新しいものを創造するのは充実した時間。地元の良さを伝えるチームとしての活動も大切にしていきたいと思っています。職人同士つながりの中で、南牧村にあるレストランのシェフと意気投合し、「りあん」を会場にして季節ごとに「39French(サクフレンチ)」という食事会を開いています。テーブル10席のちいさな食事会ですが、おかげさまで毎回満席になり好評をいただいています。料理を食べながら会話する人たちの笑顔を間近に感じられ、新鮮で楽しいひとときです。 食を通して佐久を盛り上げ、元気にしたい。私たちが住んでいる場所はすばらしいということを再確認し、地元がますます好きになるような取り組みをしていきたいです。