佐久の自然の恵みを活かした地域づくり

きたやつハム株式会社(佐久穂町)

佐久穂の気候風土で育まれた
放牧豚が生み出す最高の品質

千曲川の源流近く、八ヶ岳を望む佐久穂町。爽やかな風が渡る山の工房で「きたやつハム」の商品は生み出されている。「佐久穂町は内陸性の気候がドイツにとても似ています。冷涼で澄んだ空気に加え、八ヶ岳の伏流水と、優れた製品造りに適した環境が自然の中に整っています」と語る社長の渡辺敏さん。地元出身の渡辺さんは、農協で畜産物生産振興、観光振興目的とした特産品センターハム工場に従事し製品造りに取り組んだ。「本場でハム造りを勉強したい」とドイツへも渡りソーセージやハム、肉の加工技術について本格的に学んだ。2012年には、同工場を「きたやつハム株式会社」として独立させ、養豚も開始。加工から販売までを一貫して行う6次産業の認可を受けている。

きたやつハムの製品造りの最大の特徴は、最高品質の加工品生産のために素材(豚)の飼育にこだわること。すなわち素材にこだわり、豚の飼育だけでなく加工にも手間と時間をじっくりかけること。通常、豚の肥育期間は飼料代を考え6カ月程度のところ、きたやつハムでは9カ月程度までじっくり放牧しゆっくりと時間をかけて育てる。これにより、豚は十分に成熟し、最高品質のハムやソーセージの原料となる。会社設立の年に5頭の子豚から始めた養豚は翌年には45頭、その次の年には100頭を数えるまでになった。広々とした敷地で、土の上を存分に走り回っている豚たちは毛並みがよく、声も元気そのもの。専属の獣医師が牧場に通い、愛情を注ぎながら日々健康を管理している。「豚は清潔好きで繊細な生き物です。ストレスがあれば元気がなくなり、肉質にも影響が出ると思います。普段の様子をよく観察し、わずかな変化を見逃さないように気を付けています」。ハムやソーセージ、ベーコンづくりに適した肉と脂を調整し飼料にも工夫を凝らしている。塩はドイツの岩塩をメインに、5種類の天然塩を製品に合わせて数種を組み合わせている。地下300メートルから汲み上げる八ヶ岳の伏流水は、塩のミネラル分が溶けやすい軟水で、これも大切な素材。

「ハム本来の味を大勢の人に味わってもらいたい」との思いで、スタッフ全員が職人としての高い意識を持ち商品作りに取り組む。着色料や保存料、増量剤などの添加物を一切使用せず、素材本来のおいしさを最大限に引き出す基本に忠実な製品造り。「伝統的なドイツの製法は手間ひまがかかりますが“時間をかける”ということも最高の調味料です」。  工房に併設された直売所には連日たくさんの客が訪れる。アクセスが良いとは言い難い場所ながら、製品を求めて遠方からも繰り返し訪ねてくるのは、一度食べたら忘れられない「本物」の味に再び出会うためだ。その味は本場ドイツでも認められ、2012年、13年、14年ドイツ農業協会(DLG)国際ハム・ソーセージ品質コンテストで金賞・銀賞を連続受賞している。

「これからは、町の観光資源としての役割も果たせていけるようにと思っています」と渡辺さん。職場研修に来た高校生たちにはジャーキー加工の学習体験を行い、地元小学生の工場見学を受け入れるなど、地域の人が工房を訪れる機会を増やしている。また、佐久穂町の事業で公民館を活用して山羊などのふれあい牧場やハーブ園を作ろうとする動きがあるようだ。「山羊のふれあい体験だけでなく、いずれは豚や山羊の加工体験なども企画し、親子でゆったり過ごせる場を作りたいです」。ハム造りを通して、様々なつながりや交流を広げる意向だ。