話: フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト 小谷あゆみさん(東京都世田谷区在住)
自らも野菜を育て、「農」の楽しさと魅力を発信し続けている フリーアナウンサーで農業ジャーナリストの小谷あゆみさん。 全国の農村を取材してきた小谷さんが、今回佐久の土地で直に触れた 農業や漁業の生産者、そして食を生み出す人びとの独自の魅力を探ります。
佐久の食と農の魅力は何か。米、野菜、果樹、畜産から養魚まで今回訪ねた産地は、いずれも土地の個性を生かし、イキイキとした生命力にあふれていました。 つながり自然農園の磯村さんは、田んぼの雑草を取りながら、「いろんな草がある方が僕にはちょっと嬉しいんですよね。多様な生物の生息地になるから」と話してくれました。草の種類が増えて嬉しい。そんな農家に出会ったことがありますか!?生産性だけでなく農業体験や生き物調査のフィールドとしてとらえる環境ガイドをしていた磯村さんならではの視点です。
東京から移住してきた藤井さん夫妻の農園では、背丈より高いジャンボニンニクの花が夏空に向かってびよーんと茎を伸ばし、まるで野菜のワンダーランドです。2組とも野菜の宅配をしていますが、共通しているのは、都会に友人知人がいるため、販売先に困らなかったこと。自分たちが食べたいものを作り、友達とシェアする暮らし。こうした新しい風が佐久の魅力を豊かにしています。
美しい佐久の中でも忘れられない景色の一つは、八ヶ岳から流れる大石川の清流を活かした養魚場、八千穂漁業です。こんこんと溢れる水の中で勢いよくはねる信州サーモン。水はあらゆる命の根源です。そのほか、泥んこで走り回る自然放牧豚のきたやつハム、地元酒店とコラボ商品を開発するりんごやSUDA、東京から移住してブドウとワイン醸造に励む伊澤さん。何よりわたしが驚いたのは、今回訪ねた全員が知り合い同士だったということです。パン屋りあん、Maru Cafe、お料理れもんでは、訪ねた農産物のメニューをいただきました。地域に暮らす生産者同士みんな友達なのです。
これからの食と農は、こうした「友産友消」が重要になってきます。生産者と消費者の関係は経済だけでなく、互いが相手を励まし、喜び合う「心のつながり」です。これほど親しみと安心のある食があるでしょうか。
今年度から国で「日本農業遺産」の認定が始まりました。評価の対象は、美しい田園風景、伝統的で多様な農業。担うのは紛れもなくその土地を耕す人々です。
磯村さんは祖父である堀米一さん(93歳※2016年取材時)の田畑を継ぎました。コスモス畑を作り、地域づくりを実践してきた一じいちゃんにとって、これ以上の喜びはないでしょう。
「演説より演技をしろ」という言葉があります。ふるさとを愛し、イキイキ暮らしている人のところへは、自ずと人が集ります。農(漁)業は土地の力を目に見える形に変え、おいしい感動を与えてくれる魔法です。佐久の宝物は何よりこの土地を耕し、食を生み出す人々に他なりません。