話: 藤井農園・藤井志郎さん
佐久市の標高約1000m地点に、藤井農園はある。 かつて、夫の志郎さんはシステムエンジニア、妻の恵さんは営業職として東京で働いていた。 一消費者だった頃の感覚を大切にしながら、理想の農業を形にしてきた二人。 その暮らしはどんなふうに変わったのか、また、藤井流農業、そのおもしろさとは―。
スーパーには一年中同じ野菜が並んでいますが、畑の上ではそういうわけにはいきません。夏野菜は夏にしかできない。本当の意味で「旬」の野菜だけを届けています。収穫した野菜は、その日のうちに発送するので、翌日にはお客様のお宅に届きます。生産者と消費者が直接つながる関係。食べる人が見える農業はやりがいがあります。
佐久の気候の特長は、昼夜の寒暖差。夏でも夜になれば涼しいので、野菜の呼吸量が抑えられて、エネルギーが蓄積されます。その蓄積されたものが栄養価や旨味に凝縮されていくんです。
私たちは化学肥料や農薬を使わず、たい肥などの有機質肥料だけを使うことをモットーとしています。農薬を使わなくても、健康な野菜であれば病害虫の被害を 受けにくい。健康な野菜は、野菜の表面を作る細胞壁がしっかりしていて、病気や害虫を寄せ付けません。野菜が自分の持つ力で強く生き残れるように、化学肥 料ではない、天然の肥料のバランスを研究し、日々実践しています。
東京で生活をしていた頃は、買い物にいくと同じような野菜ばかりを買っていました。知らない野菜は食べ方がわからない。だから、発送するときは簡単なレシピを必ずつけるようにしています。忙しい方でもパパッと作れておいしい食べ方を、生産者が発信していけばいいと思うんです。家庭の冷蔵庫で保管できる量を考慮したり、泥を落として使いやすい状態で発送することも、大切だなと感じています。
新しい野菜の味を知り、調理方法で味が違うことを知る、そうやって食生活が豊かになることが、食育の一つといえるのではないでしょうか。
佐久に移住して最初の一年は、無農薬・無化学肥料農業に取り組んでいる農家のもとで研修生として学び、その後独立しました。技術はもちろんですが、地域の中で人のつながりを作れたことはとても励みになりました。この地域は、それぞれの農家が農業技術などにプライドをもっていますが、新規参入者の研修にはとても前向きで、個々の方針は違っていても、とてもオープンに受け入れてもらえたこともうれしかったです。
子どもと一緒に収穫した野菜が夕食に並ぶなんて贅沢ですよね。東京にいるときは、食べ物に限らず、外部に依存した生活でしたが、ここでの生活なら家族を守れる、と自信が持てるようになりました。また、サラリーマン時代と違って農作業と余暇を自由に選択できるので、子ども達と一緒にいる時間が増え、「生活を楽しみながら自然に親しみ農業ができる」ということに幸せを感じています。
移住して農業を仕事にしたい、と考える方々には、私たちの経験を基にしたことであればいろいろなお話しができると思います。自分たちが佐久でしてもらってうれしかったことを、次に続く人たちにお返ししていければいいなと思っています。