佐久の自然の恵みを活かした地域づくり

長谷川治療院 農業部(佐久市春日)

初めからそこに
生えていた
かのごとく

農業を初めて6年(取材時2016年時点)。大阪でグラフィックデザイナーとして働いてきた長谷川さんは、佐久へ移住して少量多品目の野菜を栽培する農園を営む。「デザインの仕事はとっても楽しかったけど、ずっと第一次産業に憧れていたんです」と話す。サイクルの早いデザイン業界を離れ、野菜のゆっくりとした成長するスピードに日々向き合っている。 農園がある標高1,000mという環境は、野菜にとってはある意味過酷な状況。だからこそ、野菜は自分の体を守るために、いろいろな力を働かせる。風が吹いても折れないように、ほどよい硬さになり、しっかりとした歯ごたえを持つ。大根は、冬場に凍ってしまわないように、自らの糖度を上げて凍りにくくする。「野菜はうそをつかないんです。生存するためのシステムがちゃんとあって、そこには必ず整合性がある」。野菜に宿る、見事な命のデザインに魅了された。

「農業を始めた頃、ホウレンソウが病気になってしまって。私はどうしようと慌てたんですが、数日したら、病気にかかった葉だけを枯らしてぽろりと落としたんです。野菜は生き残るために、自分で考えているんだなあと感心しました。気孔を開いたり、ホルモンを出したりしながら、自分で何とかしようとする力がちゃんとあるんですよね。だから、私が野菜に何かをやってあげようというのではなく、野菜が手助けをほしがったときに、必要な手を貸したいな、と。そうやって野菜を育てていきたいと思っています」

「好きな言葉は“理(ことわり)”」という長谷川さん。「気候に左右されるのは、当たり前。自然の理から外れない野菜を作ってみたい。理から外れるものは、無駄も多いんじゃないかなと思う」。 「お客様に、野菜にも“きれい”っていうジャンルがあるんだね、と言ってもらったことがあるんです」。それは、ぴかーんと光るつるんとした手触りのナスだった。長谷川さんはこう考える。
「例えば、ビニールマルチを張れば草は生えない。だけどここの畑はほどよい雑草があるから、日影ができて土の水分が保たれる。草についた朝露が落ちれば、土の水分になる。自然の理の中できちんと保湿されて、みずみずしいナスができる」そういう自然の摂理サイクルを肌で感じている。
「野菜が成長するために私を必要としてくれるから自分の仕事があるし、お客さんが待っていてくれるからこの仕事を続けられる」と長谷川さんはこの仕事のやりがいを熱く語ってくれた。あくまでペースを崩さない。出荷のパッキングは「最後のおめかし」として、全て自ら行う。どのお客様とも、長いお付き合いになっているという。「花束をもらった時のように、手に取った時どう見えるか、考えているんです」と笑顔を見せた。