佐久の自然の恵みを活かした地域づくり

ワインぶどう農家 伊澤貴久さん(立科町)

飲んだ人が、
立科のとりこになる
ワインを

自らの手で一からぶどうを育てて、ワインを造る―。その夢を叶えるために、3年前の2013年、東京から移住してきた伊澤さんが、立科町で暮らして驚いたことのひとつが、野菜の味がとても濃いこと。甘みのつまったジャガイモやニンジン。「この野菜に合うワインを作りたい」とひらめいた。
1.6haのぶどう農園でシャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、メルローなどを育てている。パートナーにヤギが二頭。「ぶどうの木は繁殖力が強い。植物はぐんぐん成長していくけど、ワインに適したぶどうとなると、ただ大きくなるだけではダメなんです。植物と話し合って手を加えないと。簡単なことではないと覚悟はしていたけど、やっぱり簡単じゃないね」と笑顔を見せる。

東京では、農業とは真逆の金融業に携わりながらも「若い頃は、観光農園をやってみたかった」と話す。それは、時を経て「ワインを作りたい」という思いに変化していった。立科町農業振興公社でワイン用ブドウの開発に取り組み始めたことを知り、それまでにもたびたび遊びに来ていた立科町への移住を決意。
「景色がいいでしょ」。高台にある伊澤さんの農園からは、浅間山連峰が広がり、方角を移せば日本アルプスも見渡せる。自慢の眺めだ。「立科産のワインを飲んだ人が、この風景や立科のことも好きになってくれれば―」。ワイン一杯から広がるストーリーがある。ぶどうが育った土地の空気や風景、どんなふうに栽培し収穫したのか。そういう背景が見えるワイン造りをしたいという。

フランス語で“結婚”を意味する「マリアージュ」は、“調和”を表す言葉でもある。「ワインと食のマリアージュ、ワインと風景のマリアージュ、いろんなマリアージュが楽しめると思うんです。地元の野菜はもちろん、パンやチーズと一緒に味わう楽しさも広めたい。一緒に食べるものによってワインがよりおいしくなることもあるし、ワインが料理を引き立たせることもある。
そういうワインの面白さで、立科町が盛り上がっていけば」。 「30年前、この辺り一帯はぶどう棚が広がっていたんだそうです」。私(ライター)も初めて聞く話だった。主要産業の一つであった養蚕が衰退した後、一時は栄えたものの、手のかかるぶどう栽培は自然と衰退し、そのまま姿を消してしまったのだという。30年の時を経て、立科にぶどうのある風景が帰ってきた。伊澤さんが手がけた立科産ワインが2016年の秋、デビューした。